TOEIC等、英語のスピーキングテスト比較(特徴と有効な活用方法)

これまで国内で実施されていた主な英語テストは読み書きの技能を問うものが主流だったが、より実践的な英語力が求められるようになっている今日、さまざまなスピーキングテストが実施されている。今回は国内で受けられる主なスピーキングテストを挙げ、その特徴と有効な活用方法について、学会での論文の発表を続けながら、大学や企業向けに英語研修を提供している、鈴木武生氏に話を伺った。

まず主な試験としては次のものが挙げられる。

(1) TOEICスピーキングテスト(IIBC)-CEFR対応
(2) VERSANT<ヴァーサント>(日経&Pearson)-CEFR&GSE(PearsonのGlobal Speaking English)対応
(3) TSST(アルク社)-CEFR・TOEIC SW対応
(4) BULATS<ブラッツ>(英検協会&ケンブリッジESOL)-CEFR対応
(5) GCAS<ジーキャス>(英検協会)-CEFR、英検、CSE(Common Scale for English)対応
(6) E-CAT国際英語能力検定<イーキャット>(iTEP Japan & Boston Educational Services) -CEFR対応

 

CEFRとは?
CEFR (Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment) は, 語学シラバスやカリキュラムの手引きの作成、学習指導教材の編集、外国語運用能力の評価のために、透明性が高く、分かりやすい、包括的な基盤を提供するものとして、20年以上にわたる研究を経て策定された基準である。欧州域内外で使われている。
(参照:http://4skills.jp/qualification/cefr.html

図1-7

 

1.目的


これらのテストの大半は国際ビジネス環境におけるスピーキング能力測定に目的を絞ったものだが、このうちTSSTは学生用問題とビジネス特化問題が選択できる工夫がなされている。一方、E-CATは学生から一般社会人を対象とした幅広い内容を出題内容に設定している。


2. 手軽さ

受験方法は最も手軽なものが電話受験、次にPC受験、そして指定会場受験という順になる。
まず電話受験が可能なものはTSST(受験時間約15分)で24時間いつでも受験できる。
VERSANT(受験時間約17分)、BULATS、(受験時間約17分)、E-CAT(受験時間30分)はスマートフォンやPCを使ったオンラインによる受験が可能である。VERSANTは試験終了後5分で判定が分かるのが特徴である。

E-CATは自宅でのPCで受験する方式で時間は30分と多少長めになっているが、その分リラックスして受験できるようナビゲーションに工夫がされている。


3.費用

費用はTOEIC SWが10,260円(以後全部税込み)と最も高く、次がTSSTの8,640である。前者はライティングテストも含んだ個人受験の場合で、IPテストであればスピーキングのみの受験も可能である。
その他の試験はいずれも6,900以下(VERSANT 5,400、BULATS 6,900、GCAS 6,900、E-CAT 4,860)である。


4.測定可能な能力

コンピュータによる完全自動判定はVERSANTとTSSTが採用している。
コンピュータ判定は発音、流暢さそして瞬発力を手軽に測定することが可能だ。VERSANTは、ナチュラルスピードの設問文に対する応答の自然さ、流暢さ、即時性の測定を主眼にしている。最初の流暢さを測定するセクションを除き、設問レベルが全体的に高いため(文構築、要約、自由回答など)、初級者よりも中上級者以上の能力測定に向いている。

TSSTはこうした機械自動判定の特徴に加え、場面別の遂行能力(説明、提案、理由など)と対応能力(自分について、時事問題、予期せぬ質問)などの設問があるのが特徴である(設問の読み上げは日英2言語で行われる)。また平均的なスコアゾーンに近い受験者によりきめ細かなフィードバックが提供できるよう、スコア評価ゾーンも日本人のスコアが集中する初中級ゾーンに特化して細分化されている。


TOEICスピーキングテスト、BULATS、GCAS、E-CATはいずれも専門の採点官が評価を行うため評価判定には一定の時間がかかる。しかしその反面、コミュニケーション能力をより深く、細かく測定することができる。特にTOEIC スピーキングテストは20分という短時間ながら、特に「解決策提示」と「意見表示」のセクションでは、状況を的確に把握しタスクを遂行する能力を客観的に測定することができる(結果は試験後3週間から30日以内)。

この点ではBULATSも同様の能力を測定するセクション-「プレゼンテーション」「グラフを用いたプレゼンテーション」「ロールプレイ」―を設けている。BULATSではオフィスや一般ビジネス場面ばかりでなく一般トピックもカバーされている。

人間を介した評価方式はさらに細かいコミュニケーション能力の評価を可能にしている。例えばGCASは面接官によるインタビューを設けている。単なる発話力だけでなく、言いよどみなどを使ったコミュニケーション能力や反論/説得能力の測定と、きめ細かなフィードバックが提供されるため、長期間の海外赴任者の選定などに適しているといえる。


E-CASTは、より幅広い一般的なスピーキング能力を念頭に置いており、スピーキングにあまり慣れていない学生や一般の社会人が、このテストを励みや目安にしながら学習を継続していく、といった使用法に適している。テストの最高点はCEFRのB2とC1という設定なので、初中級者が、英検準1級レベルの会話力を目指すという公教育/企業向けプログラムのテストには効果的に活用できるだろう。


5. 評価スケールと「話せる」レベル

話せるレベルを示す共通スケールをCEFRで見た場合、B1は、会話は「できる」ものの範囲があくまで限定的となる。やはり安定した会話力を求める場合、例えば海外赴任においてはB2が必要となる。

TOEICスピーキングテストでは、特にロールプレイにおいて、自分の役割や状況を素早く理解し、的確にソリューションを提案する力があるかどうかを評価の中心ポイントに置いている。そのため、細かいビジネスシーンは別として、英語を用いてなんらかの困難や状況に効果的に対応する力を測定するには非常に向いていると思われる。こうした状況で何とか対応できるレベルが120点(CEFR B1相当)以上、効果的に対応するには160点以上(CEFR B2相当)が必要だろう。

VERSANTは20-80点の7段階(日本人平均は38点)で、45点で英語圏での生活が支障なく行えるレベル、58点以上(CEFRのB2以上)であれば業務でも十分に話せるレベルとされている。

TSSTはレベル1から最高9までの9段階で、国内で限定的な内容の業務を英語で行う場合にはレベル4以上(TOEIC LR 600点以上)が、また、英語で出張業務が行えるレベルとしてはレベル5以上(TOEIC LR 700点以上)がそれぞれ求められる。企業受験者ではレベル4がボリュームゾーンとなっている。

BULATSは60点以上がCEFR B2に相当する。GCASは評価がCEFRレベルとGCASスコアの二つで判定される。GCASスコアでは171点以上がB1に、また205以上がB2に相当する。

E-CATではC1のぎりぎり手前が満点レベルに、90~100点が B2、70~89点が B1に相当する。

以下にそれぞれのスピーキングテストをCEFR換算した表を添付した。

 スピーキングテスト得点CEFR換算-1

※CEFRのそれぞれのレベル感は以下参照
http://4skills.jp/qualification/cefr.html

 

6. 総評

費用的にはいずれのテストも極端な差はないので、評価の対立軸は、(1)受験の手軽さと、(2)評価の細かさ、(3)効果的な評価判定ゾーンの三点に絞りこめる。


(1)の手軽さについて言えば、完全コンピュータ判定型のテスト、または携帯や自宅PCで受験できるものが大人数の受験に適していると思われる。(2)の評価の細かさではやはり、面接官を介したインタビューを含むもの、もしくは採点官による評定が行われるものが細かなフィードバックの提供や深いコミュニケーション能力の評価が期待できる。最後に(3)の評価判定ゾーンについて言えば、初中級者にフォーカスを当てたもの、中上級者にフォーカスを当てたものがある。前者にはE-CASTが、また後者にはVERSANT、BULATSとGCAS、TOEICスピーキングテストとTSSTがその中間に位置付けられると思われる。

社内の英語力強化・英語研修をお考えの方はこちらをご覧ください。

 

鈴木 武生(すずき たけお)

元商社マンから日本語教師、翻訳者、通訳者、辞書編纂者を経て独立。東京大学大学院博士課程修了、Ph.D(言語学)。英日中の意味論、構文論、語用論。タイヤル語の文法記述
image-2株式会社アジアユーロ言語研究所代表取締役。

https://asiaeuro.org/


「海外経験のない一般的な日本人が、外国語能力を身に付け、外国人とコミュニケーションが図れるようになるためには、一体何をどのように実践したら良いのか、またどうすればそうした学習者を支援できるのだろうか。」という思いで設立。代表として企業語学研修を中心とし、日系・外資を問わず、またあらゆる業種の企業に対し、学習者の語学力向上をサポート。