理系人材に必要な日本語レベルと育成モデルとは

日本にいる外国人労働者は年々増えており、2017年度には前年度から20万人増加して約130万になりました。(参照:「厚生労働省 外国人雇用状況」の届出状況まとめ)

そのうち約25万人が技術職に就いていると言われ理系人材の採用も年々加速しています。

今回は、外国籍の採用事業を10年以上行っており、日本語教育のプロフェッショナルである、工藤尚美氏と、日本語のトップ講師である長崎清美氏に理系の外国籍採用に必要な日本語レベル(※)や語学育成モデルについてインタビューいたしました。その内容をお届けします。 

 ※今回の日本語レベルの基準は、JLPTの日本語能力試験に基づいてご紹介いたします。
「日本語能力試験とは?」につきましては以下ページをご参照ください。
https://www.jlpt.jp/about/index.html

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Q.理系の外国籍の方が日本で就職する際に必要な日本語力はどの程度でしょうか。

昔は理系でもJLPT(=日本語能力試験)のN2程度を必要とされる会社が多くありました。今は漢字圏の場合は N2以上を求められることが多いですが、非漢字圏の場合、N3でも採用する企業が多いです。N 1が必須のところは殆どありません。

※漢字圏 = 中国、韓国、シンガポール、および華僑(文化に漢字がある圏域)
※非漢字圏 = 上記以外(漢字が文化にない圏域)

 N2やN1が必須という企業もありますが、特にN1となると、理系人材の場合は、ほとんどの場合、そこまでは必要ないようです。

日本語要件を考えるに際してですが、人事の方のほとんどは日本人ですので、日本語能力試験を受験なさったことがないと思います。そこで、一度、日本語能力試験の問題をじっくり見てみることをお勧めいたします。

N1に合格していたとしても、仕事ではほとんど使わないワードが多く、逆に学生生活中心のアカデミックなワードが多かったりします。日本語能力試験は一つの指標に過ぎないということを肌で感じて頂くと、より実践的な日本語要件が策定できるように思います。

特にJLPTの試験の読解問題は人事の方に解いていただいたほうが良いと思います。

 

Q.一般的にN4が基礎的な日本語を理解するのに必須と言われておりますが、N4では日本で働く際に不十分でしょうか。

実際のところ、基本的な日本語コミュニケーションで必要な文法の多くは、N4までに網羅されていますので、N4レベルがあるかどうかは、重要なポイントになります。

初級の学習(N4レベル)が基礎となり、その後は、より細かいニュアンスを表すための表現や書き言葉の学習が増えてきます。

つまり、N4までの文法ができていないといくら語彙や表現が増えたとしてもきちんとした文章が作れない可能性があります。日本人がよく使うような表現を使っていると、ペラペラと喋っているように見えても、実はきちんとした日本語ができていないという状態になってしまいます。

このような点からN4レベルの日本語力が基本になると考えられます。

N4レベルの日本語力があれば、基本的なやりとりはできますが、より自然で円滑なコミュニケーションをとることは難しいと言えるでしょう。一部の企業ではN4取得後すぐに実践的なビジネス日本語の学習に取り組まれている例もありますが、暗記をしたビジネスタームだけが上滑りしてしまうことがあります。たとえば、最初の挨拶はしっかりしているのに雑談になったとたんに、幼稚な日本語しか話せなくなってしまい、話が続かなくなってしまう人もいます。その点でN3があったほうが良いと思います。

 また、N4レベルの日本語力の場合、書き言葉の理解が難しいため、職場で受け取るメールの処理に時間がかかってしまうことも考えられます。N4で網羅している漢字は300字程度で、これは小学校の中学年レベルに相当します。このレベルだと、受け取ったメールが、読んでおけばいいだけのものなのか、返事をしなければならないものなのかなどを見極めるのに、周りの方の手助けが必要となる場合が多いです。N3レベルの力があれば、こうした対応ができるようになってきます。このような例からも、N3レベルの日本語力が社内での円滑なコミュニケーションには必要ではないかと思われます。

ただし、建築やエンジニアのように共通用語がある分野では、N4レベルでも『対社内に限って言えば、十分にコミュニケーションが取れる場合もあります。

また、入社時にN4レベルの日本語力に達していない人であっても、それぞれの職場で必要とされる日本語はレベルに関わらず身に付けていただく必要があります。

様々な企業様の事例からすると、『会社でよく使う漢字』は『必ず教えなくてはいけません』。

 

Q.一般的にN4、N3はどのくらい勉強すれば到達するのでしょうか。

漢字圏であれば、1日日本語学校で、4時間勉強するとして、2ヶ月ほどでN4、さらに3~4ヶ月でN3に到達することも不可能ではありません。非漢字圏の場合は、その倍近くかかると考えられますので、1年程度でN3レベルに到達できると考えられます。

ある製造業の会社では以前は、来日前の母国での現地研修がありましたが、国によって日本語教育のレベルが違い、来日時の日本語レベルにばらつきがありました。それで、今は、内定者に対して同一機関の講師によるオンラインを使った対面レッスンを提供してN5ぐらいのレベルで来日するようにしています。

来日後、400時間ぐらい日本語を学習することで、N3程度の日本語力を身につけています。

 

Q.理想の理系の外国籍人材語学育成モデルとは?

日本語能力試験N3レベル以上が望ましいと思います。

N3は旧日本語能力試験の2級と3級の間のレベルで、2010年の日本語能力試験改定の際に作られました。職場で必要とされる基本的な日本語力を測るのにちょうど良いレベルだと言えると思います。

ただし、N3の試験に合格しただけでは仕事をする日本語としては不十分です。JLPT(日本語能力試験)で測る日本語力は、ビジネスシーンで使う日本語というわけではないので、外国籍社員の内定者には、ある程度の時間、ビジネスの日本語を学ぶ時間を作った方が良いと思います。たとえば、職場では「さようなら」ではなく「お先に失礼します」を使うというようなビジネスシーン特有の表現を学ぶ必要があります。

また、漢字に関しましては理系人材であれば、「書くこと」ではなく「見て意味がわかること」が重要です。

特に、会社で使う専門用語は少なくとも見て認識できなければなりません。

外国人は漢字に苦戦することが多いので1つのソリューションとしては「試験に出る漢字」の勉強ではなく、「仕事に必要な漢字」から覚えるようにすることで、学習のモチベーションも上がり、効率よく人材を育成出来ると思います。

以上の事から理系の採用の基準は、日本語能力試験のN3レベルが望ましく、N4レベルで来日した際は、日本語教育機関等で集中的に学習をするといいでしょう。また、日本語能力試験の勉強の他にビジネスシーンで使う日本語も一定期間学習していただくことで、職場へのソフトランディングができるのではないかと思います。

 

工藤 尚美氏

人材サービス系企業にて企画開発、営業職として勤務後、日本語教師を経て、日本語教育機関の語学事業部・国際事業部長として、外国人材への教育に国内外で携わると共に、留学生募集に従事。 2005年より企業向けの外国人材採用支援・留学生を中心とした外国人材就職支援事業を開始。外国人材採用コンサルティングやグローバル研修等、「高度外国人材の採用・育成・活用」をキーワードに、多岐にわたり企業向け採用サポートを手がける。